「脱げ。」
外の空気よりも冷たい声でそういった。
「あ・・・?!」
簡素なベッドの上で寝そべっていた柾木が頓狂な声を上げる。
俺は構わず手袋を外しながら続けた。
「筋肉の状態を見る、良いから脱げ。」
「ウォッカ浸しのてめえの体、みせてみろ。」
柾木は頭をもたげて俺を一瞥する。
「マリアに訊いたぜ。一瓶あけるのに、どんなに頑張っても三日はかかるらしいなあ?」
酒が弱い事を恥じているのは、下宿の女将に訊いていた。
「だったら何だってんだよ・・・」
怒気を含んだ声で答えながら、上半身を起こす。
「無理して飲むな、煙草も徐々に減らして・・・。」
事務的に続ける俺に噛み付くように柾木が叫んだ。
「うるせえんだよ、くそが!!!」
ようやく床に足をおろし、立たせる事が出来た。内心笑みながらなおも言う。
「完全に断て、とは言わない。堕落した芸術家が必ずと云っていいほど通る道だ。」
「はっ!解ってんなら口出すんじゃねえよ!!」
俺はわざとため息をついた。
「俺は、芸術家ならと言ったんだ。お前は競技者だろ?」
「なにがいいてえ?!」
「酒と煙草に走った競技者はもう終わりだ。お前のアスリート人生はもう終わったんだよ。柾木。」
腰を曲げて下から見上げながらそう云うと、ぎくりとした表情で小さく吠える。
「!・・・んだと・・・・?!」
「ふっ、怒るだけのプライドはまだあったのかよ。王子様。」
嘲ってやると、右の拳が眼前に迫ってきた。こめかみをかすめたが、どうにか避けた。
空に放たれたままの細い腕を掴み、柾木の虹彩を見つめながら俺は怒鳴った。
「訊け!!!お前を支え守ってきたキングはもう居ない!お前はもう王子じゃなくなったんだ。何の寄る辺も無い浮浪者然りだ。わかるか?!」
「・・・お前はまだ、北条さんの為だけに滑ろうとし」
今度は避けられるものではなかった。
「ッッツ・・・!!」
唇の端から血をだらだらと流す俺を見ながら、訊くものの心臓が引きちぎられそうなほど悲痛な声で柾木は吐き捨てた。
「・・・・知った口訊くんじゃねえ!!!」
表情はよくわからなかった。
すぐさま俺に背を向けて開け放たれていたドアから静かに一階へと降りて行った。



